凍てつくクスサン

16日が暖かかっただけで、ほかの日はほぼ毎日零下となっている北海道の山。ゆうべもかなり寒かった。夜半過ぎから水溜まりには氷が張り、草むらを歩くもシナシナとした感触ではなくガサガサした感じ。そこに1頭のクスサンが居た。いかにも夜露で鮮度が悪くなるパタンの場所。「そういうところに止まると寿命が縮むぞ。木の葉っぱや幹が良いぞ」。。。とまぁ余計なおせっかいを考える。

霜が降りたのか夜露が氷ったのか、とにかくクスサンの翅には氷が付着していた。胴部にも触角にも、とにかく空に向いた側は霜が降りたような感じになっていた。写真では判りにくいが、フキの葉にも氷は見られ、草自体も前述の通りガサガサしていたが、携帯電話のカメラおよび私のウデではそれが写しきれなかった。ということで、翅には相当量の氷が付着していたということを表す写真。

翅に氷が着いているクスサン♂

翅についたその氷を指で掻き取ると、車のワイパーで霙雪を集めるような感じだった。そして同時に、若干の鱗粉も剥がれることが判った。もとよりヤママユガ科の鱗粉は水に弱そうな印象を持つが、さらに氷の場合は、少なからず強めに鱗粉と結合しているようだった。

クスサンは体全体も凍り付いていたが、暖めると元気になりそうな新鮮な個体だったので、いっちょ「どれくらい生きるのか試してみよう」とばかりに生体のままそっと持ち帰った。本種は口吻が退化しているので、エサはおろか水分も摂らない。なのでエサに寿命が左右されない、誤差の少ない結果が得られるように思われ、「来年からは同じ作業で8月から定期的にその寿命を計ってみよう」と思ったその第一号。ただ、人的なストレスだけは最小限にと考慮した。

車の中に入れてしばらくすると氷は丸い水滴状に戻ったが、その様子を見ていると元の氷は降霜に由来するようにも思えた。そしてクスサンは蘇生し、脚が動き始め、翅もバタバタとさせ強い生命力を見せた。

さて、甲虫や蝶を見ていると、機能的だったり華やかだったりする成虫の姿が、いわゆる“昆虫の姿”として印象付く。しかし、いろいろ考えていると「幼虫こそが本来の姿なのかも」と思うことも多々ある。そもそも“本来”という言葉に意味があるのかどうかも不明だが、そんな「成虫とは、交尾をして産卵するためだけの姿である」という考えを、秋の鱗翅目ヤママユガ科を見るにつけ相当に認識する。そして、あらためて「完全変態とはすごいメカニズムだな」と思う次第。

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